2025/09/29 15:27

アナーキーシャツを制作していて、ずっと気になっていたことがある。
それは、スローガンパッチに使われる「A Bas de coca cola」と「A Bas le coca cola」という二つのバリエーションだ。

「A Bas de coca cola」を直訳すると、「コカ・コーラの靴下」や「コカ・コーラの底」といった意味になる。
一方で「A Bas le coca cola」なら、「打倒!コカ・コーラ」となる。
どちらも実際に存在するのだが、書籍『イングランズ・ドリーミング』では「打倒!コカ・コーラ」と解説されている。
つまり、当初は「A Bas le coca cola」が正しかったのだろう。

ではなぜ「A Bas de coca cola」が存在するのか。
ボクはこう考えている。アナーキーシャツの制作数が増え、スローガンパッチを書く人も複数になったとき、フランス語に不慣れな者が「Bas le」を「Bas de」と誤記してしまったのではないか、と。



「A Bas le coca cola !」が持つ強い政治性

フランス語の文法や、1968年の五月革命スローガンの文脈から考えれば、「A Bas le coca cola !」の方が筋が通る。
「打倒!」という直接的で戦闘的なメッセージは、初期のヴィヴィアンやマルコムが求めていたラディカルな主張と完全に一致する。アナーキーシャツの思想的背景には、この明確な呼びかけがしっくりくる。



「A Bas de coca cola」の誤字とその広がり

一方で、「A Bas de coca cola」は文法的に不条理だが、その不条理さ自体がパンク的だとも言える。
「コカ・コーラの靴下」という意味不明な響きは、結果的にシチュエーショニスト的な風刺や不合理性を帯びることになった。
つまり、ヒューマンエラーで生じた誤字が、逆説的に「常識破壊」というパンクの精神に沿ってしまった、興味深い事例なのではないだろうか。




t.n.A.f.t.としての選択


ボク自身は「A Bas de coca cola」も「A Bas le coca cola」も制作してきたが、最近は「Bas de」の方を多く作っている。
なぜなら、誤字も含めて「オリジナルの歴史」を再現することが、t.n.A.f.t.の立場だからだ。
そこには、誤字も含めて当時のリアリティを大切にする姿勢がある。

アナーキーシャツは、思想(打倒!)と偶然(誤字)の両方を内包した、非常に複雑な歴史の産物。
そしてその不完全さをこそ、ボクは愛おしいと思うのだ。