2025/08/29 12:29

このパッチの歴史を辿ると、1970年代パンクファッションの象徴であると同時に、もっと深い政治的背景を持った存在であることが見えてきます。
杭州で生まれたプロパガンダ布
「馬克思パッチ」には、「中国杭州絹綿厂制」と表記があります。オリジナルは、中国・杭州の国営工場「絹綿厂」で製作されました。もともとはファッション用のパッチではなく、マルクスやレーニン、毛沢東といった「革命の聖像」を布に織り込み、集会や装飾に用いるためのプロパガンダ製品でした。
当時の中国では、こうした肖像布が国家規模で大量に生産され、国内に広く流通していました。やがて一部は香港や西側へと流れ、ロンドンのチャイナタウンなどでも「雑貨」として目にすることができたのだと思います。
パンクが生んだ転倒
ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンは、そうした中国雑貨の中からマルクスの布を見つけ、アナーキーシャツに縫い付けました。
本来は「権威の象徴」であったものを、ロンドンの若者たちは「権威への挑発」として身にまとう──。
パンクの精神は、この「転倒」にこそ宿っていました。
現代では再現困難な素材
現在、この馬克思パッチをそのまま再現しようとすると、壁にぶつかります。
オリジナルは「シルクを用いた織り込み布」であり、現在の日本国内では、そのような織り機がほとんど存在しません。工場に依頼しても「シルクでは不可能」と言われるのが現状です。
国家が後押しした時代の産物だからこそ可能であった技術。産業構造の変化とともに、その環境は失われました。
t.n.A.f.t.による再現
t.n.A.f.t.では、この歴史を踏まえ、現代的に可能な方法で「馬克思パッチ」を再現しました。
具体的には、ポリエステル糸によるジャカード織りを採用。シルクの質感そのものではありませんが、織りによる立体感と重みを持たせることに成功しました。
単なるプリントではなく「織り」で復刻すること。そこに当時の精神性を受け継ぐ意味を込めています。
コピーと本物の境界
依頼した工場がデータを競合するアナーキーシャツのクリエイターに横流しするという出来事もありました。
しかし、見た目を模倣することはできても、その背景にある歴史の理解や思想の継承までをコピーすることはできません。
t.n.A.f.t.における馬克思パッチは、単なる装飾ではなく、
「プロパガンダからパンクへ、そして現代へ」
という物語を受け継ぎ、未来に繋げていく象徴なのです。
おわりに
馬克思パッチは、もともと中国・杭州の工場で織られたプロパガンダ布でした。
それがロンドンの雑貨店に流れ着き、ヴィヴィアンたちによってアナーキーシャツへと転用され、反権威の象徴へと生まれ変わりました。
そして今、t.n.A.f.t.はその歴史を再解釈し、現代の技術で再現することに挑んでいます。
「コピーではなく、本物として受け継ぐこと」── それこそが、t.n.A.f.t.における馬克思パッチの意味であると思っています。