2025/04/17 14:53
はじまり
「何かを変えなきゃいけない」
そんな焦りと、ほんの少しの希望のなかで始まった。
その当時は、印刷会社で働きながら、趣味でレザークラフトをしていた。
だが、会社の方針と自分の感覚がどうにも噛み合わなかった。
「このままじゃ、自分がすり減ってしまう」
そう思って選んだ独立の道。
グラフィックデザインとレザークラフト、自分にできることを手探りで並べては必死に食らいついた。
けれど、結果は鳴かず飛ばず。
評価されるのは、いつも近しい人ばかりだった。
ある日、ふと頭に浮かんだ「アナーキーシャツ」。
できるかどうかもわからないまま、ただ衝動に任せて作ってみた。
それが、遠く離れた土地にいる、顔も知らない誰かの心に刺さった。
そのとき、はじめて気づいた。
ボクは「何を」ではなく、「どう作るか」で生きていきたいんだ、と。
── そして2017年、「t.n.A.f.t.」は生まれた。
信念は細部に宿る
t.n.A.f.t. が生み出すシャツの一着一着には、譲れないこだわりが宿っている。
かつてはユーズドのシャツをリメイクしていたが、制作数が増えるにつれ、「オリジナルのベースシャツ」を作りたいという衝動が湧いてきた。
そこから始まったのが、SEDITIONARIESの資料をもとにパターンを起こし、理想のシャツ生地を探し出す旅。
ようやく出会えた“あの時代の空気”を纏うロンドンストライプ。
その感触は、ボクに「これでいい」ではなく、「これじゃなきゃダメだ」と語りかけてきた。
制作の要となる「馬克思パッチ」や「スローガンパッチ」にも、徹底した素材の追求がある。
プリントから織りへ。見た目のかっこよさだけでなく、「どう作られているか」へのこだわりが、t.n.A.f.t. の美学を支えている。
縫製は信頼する職人に依頼。
完璧なステッチがなければ、どんなにデザインが良くても意味がない。そこに生まれるのは“作品”ではなく、“服”であるための誠実な対話。
ブランドを伝える言葉や写真、届ける梱包資材に至るまで、妥協はしない。
それは見えないところにこそ、感性が宿ると信じているから。
派手な営業は得意ではない。
でも、泥臭くても言葉を尽くせば、きっと誰かに届くと信じている。
そして何より── ボクの感性を形にしてくれる縫製士、 背中を押してくれる家族、 「これが欲しかった」と言ってくれる、まだ見ぬ誰か。
そのすべてが、このブランドの“今”を支えている。
唯一無二であるということ
t.n.A.f.t.が届けたいのは、単なる“服”ではない。
そこに込めるのは、「感性」であり、「反骨」であり、「生き方」だ。
溢れるモノ、消費されるモノ、そのスピードに巻き込まれたファッション業界。
けれどボクは、そのスピードに「待った」をかけたかった。
大量生産・大量消費のサイクルではなく、一枚一枚と対話しながら生まれる服を作りたかった。
ファストファッションへのアンチテーゼとして、t.n.A.f.t. は存在している。
アナーキーシャツは、本来“反体制”の象徴として生まれた。
けれど、ボクにとってそれは、ただの懐古主義ではない。
そこにあるのは、自由な感性を表現するための“媒体”。
正解のない美しさ、手探りの創造。
自分の中にある“何か”を信じて、表現に落とし込む行為そのものが、t.n.A.f.t.の核だ。
だからこそ、t.n.A.f.t.のシャツは一着一着が異なる表情を持つ。
それは「作品」ではなく、「感性と時代と思想の交差点」。
唯一無二の存在として、世界中のコレクターや感度の高い人々の手に渡っていく。
“アート”でも“プロダクト”でもない、“あなたと向き合う一着”。
t.n.A.f.t. が届けたいのは、そんな「意志ある服」だ。
やっててよかった
ボクにとってt.n.A.f.t.は、表現であり、挑戦であり、誠実なものづくりの積み重ねだった。
けれど時に、迷いも、不安も訪れる。
この感性が誰かに届いているのか。
このクオリティが、ちゃんと伝わっているのか。
そんなとき、ふいに届く言葉たちがある。
「一生大切にします」
「期待通りの商品でした。また利用させていただきます」
「クオリティが高く、大変満足しています」
「丁寧な梱包からも、気持ちが伝わりました」
「あのブランドを超えています」
その一言一言が、ボクの背中を押してくれる。
やっててよかった、と。
もっと良いものを届けたい、と。
単なる“評価”ではなく、感性と感性が響き合った証。
この服を通して誰かの生活に、心に、確かなものを残せたのだと知るたび、t.n.A.f.t.がただのブランドではなく、“信頼の積み重ね”だということを実感する。
作品は、完成したときだけでなく、それが誰かに届いたとき、ようやく“意味”になる。
その瞬間のために、ボクは今日もまた、手を動かしている。
t.n.A.f.t.が描く未来
このブランドの“最終地点”なんて、正直まだ想像もつかない。
だけど、それでいいと思っている。
ゴールを決めてしまうより、自分の感性と衝動に正直でいたい。
t.n.A.f.t.が目指すのは、“豊かさ”と“自由”が両立するライフスタイル。
好きなものをつくり、信じる表現を形にしながら、
日々を、そして人生を、もっと自由に、もっとクリエイティブに生きること。
作品は、日本にとどまらず、まだ出逢っていない世界中のコレクターたちへ。
彼らとの接点は、時に言葉を超えて、t.n.A.f.t.のアナーキーシャツが架け橋になってくれると信じている。
またいつか、個展も開きたい。
一着一着が持つ”物語”を、空間に立ち上げてみたい。
見る人、着る人、語る人、それぞれの感性と交差する場所を。
そしていつか──
「アナーキーシャツといえば、やっぱり日本の“大谷”だよね」
そう言われるような存在になれたら、最高だ。
未来はまだ白紙でいい。
でも、そこに描かれるのは、いつだって“唯一無二”でありたい。